第1章

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 この人にだけは、なりたくないな。  そう思う人が、知り合いに一人いる。彼はボクより2つ年下で、これを書いている現在、28才。彼のようになりたくないと言っても、彼の性格やルックスに問題があるわけではない。むしろ、彼はナイスガイといっていい男だろう。  ただ、彼のように、不幸に気に入られたような人間には、なりたくない。  ボクらのような、徒手空拳で行き当たりばったりの生き方をしている人間にとって、ツキがないというのは大問題だ。  彼と初めて会ったのは、中学生のとき。――ボクが中三で、彼が中一だった――  彼の兄貴とは、その前から面識があった。まあ、面識といっても、なんどか顔を会わせたことがある程度だったが……。中一の3学期途中、中途半端な時期に転校してきた彼の兄貴は、ボクとは違うほかのクラスだったが、新しい学校の指定している、背中に背負うタイプの通学用鞄を買ってもらえず、ずっと前の学校指定の、手から下げるタイプの皮の鞄を使っていたのが印象に残っている。
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