第1章

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 1学期途中で転校してきて、新しい鞄が買ってもらえず、ずっと前の学校の、肩からたすきがけにするタイプの鞄を使っていたボクは、自分以外にも、みんなと違う鞄を使っているヤツがいて、なんとなく安心したのを覚えている。思春期の子どもにとって、どんな些細なことでも、みんなと違うというのは心地が悪い。  その後、ボクと彼の兄貴が3年生に上がる年に、ふたつ下の彼と、ボクの弟は同じ中学校の新入生になった。その頃にはボクは学校に通うのを辞めていて、彼が学校でどんな生徒か、彼の兄貴はいい加減、新しい鞄を買ってもらえたのか? 学校でのことは何も知らなかったが、たまたまボクの弟と彼の仲が良かったおかげで、彼のプライベートな部分を知る機会がなんどかあった。  家庭環境は最悪で、彼はいつも腹を空かせていた。彼がウチに来ると、どれだけ炊いていても、炊飯器の中から米が無くなると、よく母がボヤいていたのを覚えている。  ウチは母とボク、弟がふたりという家族構成で、彼は父親と兄、妹という構成だった。彼の母親は、子どものことよりも好きな男と一緒に、大阪で暮らしていた。なんどか見たことのある彼の父親は、顔全体を覆うように髭が生えていて、いつも作業服に長靴といういでたちで、暗い表情をしていた。  お互いに訳ありの家庭で育ち、互いに次男坊で、互いに排他的な田舎町によそから転校してきた。ウチの弟と彼が仲良くなったのは、当然のこと、似た部分に共鳴するものがあったんじゃないかと思う。
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