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「待ちな」 「長塚のバアちゃん!?」  俺は振り向きながら、声の主に向かって叫んだ。  大きく肩幅ほどに自分の足を広げて、右手に草箒を持って仁王立ちしている。  頭には長く白い鉢巻が巻かれ、その先が風になびいて空を泳いでいた。  まるで剣豪のような、いでたち。 「あんたの考えは、分かってたよ」  右足が、半歩ほど前に出る。それに合わせるかのように、俺も半歩ほど後ずさりしてしまう。  圧倒的な威圧感だった。  だが、今更ひるむわけにはいかない。 「平家だか何だか知らないが、わけの分からない呪いみたいなもんで、チビで生まれるようにされるなんて、冗談じゃない!」  足元に金属バットが転がっているが、それを手に取るつもりはなかった。素手で、構える。 「ふん、大した男気じゃないか。それとも、婆だと思って舐めてるのかね」  長塚のバアちゃんは、薙刀の経験がある。  草箒を両手で頭上に持って、顔は俺の方を向いたまま体は右に向けると、箒の柄は先端が俺の方へ伸びる。  上段の構えだ。――距離的にも時間的にも、打ち込みに有利な構えだったはずだ。  俺に武術の経験はない。すなわち、相手がお年寄りと言われるような女性でも、テクニックでは絶対に勝てない。
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