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……ならば、力任せにいくか?
悟られないように、長塚のバアちゃんの下半身を見る。ラグビーのタックルの要領で低く飛びつけば、打撃は受けるだろうが、倒すことはできるかもしれない。
ためらってはいけない。隙は命取りだ。
全身全霊をかけて飛びかかるしかない。
相手の動きに警戒しつつ、静かに呼吸を整える。
考えが見抜かれないように、じわりじわりと腰を落としていき、――一気に飛びかかる!
「藤崎くんっ!」
――へっ? 糀谷さん?
体はタックルの姿勢のまま、顔が自然と声のする右側へ向いた。
心配そうな顔をしている糀谷さん。
「面っ!!」
バアちゃんの声が聞こえたかと思うと、俺は頭頂部に激しい痛みを感じる。
……しまった。
姿勢を立て直すことも出来ない。体の感覚は、頭部の痛みしか感じてない。
消えゆく意識の中で、自分が草むらに倒れたことだけは分かった。
――。
一旦、完全にブラックアウトしていたが、頬を軽く叩かれる感触で目を覚ます。
どのくらい、気を失っていたのかすら分からない。
ぼんやりとしか視界は見えなかったが、頭の感触から自分が誰かに膝枕をされているのが分かった。
「……糀谷さん?」
「何を言ってるんだ?」
違った。長塚のバアちゃんだ。
どうりで、なんか膝が硬いと思った。
「平家さんに手出しをするのは許さんぞ」
「分かった。俺の負けだ」
全身から力が抜けて、大の字になって横たわる。
「この塚はな、島の女たちの祈りや願いの象徴なんだよ。子供なら病にかからず健やかに育つよう願い、大人なら体の無事と健康を祈っているんだ」
顔を少し横に向けて、供え物などを見る。
本当に大切にされているのだろう。塚の表面は経年によるのか欠けている部分もあるが、汚れはなく綺麗だった。
「そうみたいだね」
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