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 ふと、九州本島で一番大きな街へ、家族全員で出かけた日のことを思い出す。  船で本島の港まで行き、そこから新幹線に乗って移動した。  確か、まだ俺は小学生だったか。生まれて初めて乗った地下鉄や、駅の周辺に林立する百貨店のビル群に、目を奪われていった。  驚くほど人がいたのを覚えている。  ある店で自分の父親が買い物する中、隣に若い女性が立った。優に女性の方が背が高い。  周囲を見回す。子供以外の大人では、女性を含めて自分の父親が一番背が低い。  俺は親父が大好きだった。ただ、街へ家族全員でくり出したこの買い物では、まるで自分の父親が一番負けないでほしかったことで負けたような気分になった。  平家塚さえ無ければ。こんな思いをすることもなかったという気持ちと共に。 「決めた」  突然呟いた俺を、二人が同時に見つめる。 「平家塚を自分たちで探して、壊す」 『はい?』  二人の声が重なった。 「塚をぶっ壊すんだよ」 「ちょっ、突然何を言い出すんだよ!」 「ほら、昔話とかで聞いたりしないか? 呪いの元を壊したら、呪いが解けたっていう話」 「いやいや! ばち当たりよ!」 「じゃあ、一つ訊く」  俺は、糀谷さんの顔をじっと見る。 「もし自分が住む所に、『女が片っ端からブスになる』とか、『女は一人残らず、胸がなくて、ウエストのくびれもなく、スタイルが絶望的になる』とか、そんな呪いがあったらどう思う!?」 「うっ、……それは」  糀谷さんが言葉につまる。 「もう俺達が、今更背が急に伸びるなんてことはないだろうよ。ただ、これから藍野島で生まれてくる男たちが、妙なコンプレックス持たずにすむようにしたいんだ」  分からない奴には分からないだろう。ただ、本気だった。 「……分かったよ、しょうがない奴だ。チビで生まれるようにされたことへ反撃をするなら、俺も参加資格はあるだろ?」  杉野が俺に向かい合う。  糀谷さんは完全に困惑していたが、俺たちの決心は固かった。
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