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「付き合ってもらって、悪いな。杉野」
そっけなく「かまわないよ」などと言ってるが、嬉しそうな表情は隠しきれてない。
「ごめんなさい、お待たせ!」
まだ待ち合わせの時間までは余裕があったが、糀谷さんが駆けてくる。
「よし。そろったところで、藍野島ツアーに行こうか」
転校初日に平家塚のことを糀谷さんに話したところ、島のことが知りたいとのことで、こうして杉野も誘って日曜に案内することになった。
集合場所を学校前にしていたので、まず学校近辺から紹介していく。
ここら辺には酒屋や商店が何件か集まっているものの、ほとんどの店が日曜を定休日としている。24時間営業などは、夢のまた夢だ。
利用することはないだろうが、他にいくつか小さな民宿も点在している。
民宿の玄関先に設置された自販機を教えておく。街で暮らしていたら、いつでもコンビニで飲み物を購入できるのだろうが、島ではそうはいかない。
あとは、役場の出張所と市民センターも教えていく。
残りは、民家と田畑と山しかない。
「さて、おおかた学校周辺の場所は紹介できたよ」
これだけ知っていれば、島での生活はひとまず困らないだろう。
「もし良かったら、あと一か所だけ案内してほしいところがあるんだけど……」
糀谷さんは、少し言いにくそうに、上目遣いに俺たちを見る。
案の定と言うか、最後はやはり平家塚を実際に見たいとリクエストされた。
「実を言うと、俺たち平家塚の具体的な場所は知らないんだよ」
「え? 具体的に知らない?」
当然の疑問だろう。
「男子禁制なんだ。子供の時になら、途中……と言うか、山の麓までなら連れて行ってもらったことはあるけど、そこで男たちは待たされるんだよ」
平家塚へのお参りは、ずっと昔から女性達の役割だった。
太平洋戦争の時だと、この島からも兵として招集された男が何人かいたらしいが、女性達は招集された男達の無事を平家塚に祈ったという。
後世で激戦地と呼ばれる戦地へ出兵したが、幸いにも全員一人残らず無事に島へ戻ってきた。
女性達は皆一様に喜び、いっそう平家塚への参りを欠かさなくなったらしい。
「うーん、やっぱり有難いじゃない。文句なんて言ったら、バチが当たるわよ?」
「それでも、嫌なんだよ」
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