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「よお、待ったか、瀬戸」
10月なのにまだまだ暑い日。午前11時。たくさんの人が行き交う駅前。オレは好戦的な笑顔で瀬戸に近づく。
「…いや、今来たとこ」
オレから目を逸らして言う瀬戸。あれ?いつもの勢いはどうしたんだよ。いきなりキャラ崩壊してんじゃねえよ。調子狂うな。
…まあいいや。
「恋人同士といえば、やっぱペアルックだよなっ!はいこれ、一緒に着ようぜっ!」
差し出す白いTシャツ。ど真ん中には大きな明朝体で、ただ一文字、「巨乳」の文字。
「どうしたよ?恋人同士のくせに、オレとのペアルックは嫌だってのかよ、おまえ」
明らかに戸惑ってる瀬戸に、さらに言い募るオレ。
今日の瀬戸は、黒のジャケットに、ボーダーのTシャツ、デニムパンツという、シンプルお洒落な格好だ。いつもファッションに気を遣ってる感じのこいつが、こんなダサいTシャツを着るなんて、絶対プライドが許さないはず!
さあ来い!
ふざけるな、おまえとは別れる、と!
「…ん、分かった」
いや、待て待て待て。分かるな分かるな!
うわ、駅前なのに脱いでるよ、いや上半身だけだけどさ。マジか、着ちゃったよ、こいつ。
「これでいいのかよ」
「あ、はい…」
…つい気圧されてしまった。マジかよ、正気か、こいつ。
…待て、オレも着るのか。なんの罰ゲームだ、これ…
ああもう、これで終わりだと思うなよ、瀬戸!
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