親友までの疾走

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 唐突な私の提案にも小気味良く祥子は応えてくれた。  支えを失った瞬間、少しだけバランスを崩したけれど、何とか持ちこたえられた。  祥子は真剣な瞳でそれを見てくれている。  また勇気が湧いて出た。 私は一、二度深呼吸をして息を整える。   それは本番前にしていた緊張をほぐす為の私だけの方法。  やがて準備が出来たのを確信して私は歩き出した。  松葉杖を付きながら、ゆっくりと不恰好にヨロヨロとした足取りだったけれど確実に少しずつ親友との距離は縮んでいく。  あと少し、あと十歩。 あと五歩。 あと三歩。 あと…一歩。  私の右足は崩れることなくゴールへと辿り着くことが出来た。 「おめでとう、ちゃんと完走できたね」  親友の胸に顔をうずめながら、頭の上から響く声に『…うん』と私は答えた。  今まで走っていた距離のほんの百分の一だけれど、私は完走することが出来たのだ。  慣れない松葉杖のせいだろうか? いままでのブランクのせいだろうか?   荒く息を吐き、背中にジワリと染みた汗で服がくっ付く感触を楽しむ。  疾走とは程遠い。 歩くよりも遅かったけれど。   ああ、あの時と同じように私の身体は全力で走った後の心地よい汗の香りに包まれていた。
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