親友までの疾走

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 本当はそんなことは出来ないとわかっているのに嘘をついてしまう。 唯一の親友だからこそ本当のことを言えないこともあるのだなと私はそのときに初めて気づいた。 「…そうなんだ、早くよくなるといいね」  私の嘘に気づいているのかいないのか? 祥子の笑顔はいつもどおりに戻った。  果たしてこれは演技なのだろうか? それとも本当の笑顔なのだろうか?  昔のような会話を繰り返しながらそんなことを考えている自分が嫌だ。  学校のことや試験のこと、共通の友達に出来た彼氏の話。 昔のことのように語り合っている。  けれど決して部活の話はしない。   祥子はきっと次の大会でもレギュラーなのだろう。 私の怪我のことを思って陸上の話はしてこない。  その気遣いを嬉しいと思うと同時にどうしても煩わしさを感じてしまう。  本当は叫びたい。  やめて! 上っ面で接してくるのは! 私が走れなくなったのにあなたはどうして走れるの?   自分の中の汚い思いと言葉が心の中で生まれてくる。  辛い。 辛いけれど、それを発してしまうことなんて出来ない。  我慢しないと…我慢しないと…大丈夫、辛いことには慣れているもの。  タイムが中々縮まらない時だって、自分より早い子に出会った時だって耐えてきた。  それだけじゃない。 足が痛くたって私は辛い練習をして大会にだって出れた。        
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