親友までの疾走

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 あの痛みに比べればこれくらい耐えられる。 耐えられるはず。 「え~、そうなんだ…おかしいね!」  祥子が話してくれた友達の失敗話を聞きながらそれらをねじ伏せて私は精一杯笑って返した。  ふと頬に誰かの手が触れた。 それは祥子の手だった。 「大丈夫だよ、きっと私が想像も出来ないくらい辛いってことはわかってるから我慢しなくていいんだよ」 「ええっ?急にどうしたの?」  誤魔化そうと渾身の力で笑みを造ろうとしたけれど、頬に触れた指先が私から流れた涙を掬い取る。 「泣きながら無理に笑うなんてしなくていいよ、上っ面じゃなくて本音で話そう…ねっ?」  どうやら私の我慢は思っていたよりも弱かったようで、うまく誤魔化して笑っているつもりが、実際のところは泣いていたようだ。  そして気づいた。 私が上っ面で話さないでと思っていると同時に祥子は同じ気持ちでいて、でもそれに気づかないふりで私に接してくれていたのだということに。 「ご、ごめん…ね…私…」 「大丈夫、大丈夫だよ」  泣きじゃくる私のあとからあとから流れてくる涙を祥子はその綺麗な指先で何度も拭ってくれた。   その流れ出る涙によって指先も指全体も、そして手首まで濡れても何度も何度も拭ってくれた。     
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