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父親は仕事人間で子供と遊ぼうとする人ではなかったし、母も仕事だといつも家にいなかった。夕飯はいつもお惣菜。幼い少女にはそれが普通のことだったが、恐らく隣人からは白い目で見られていたことだろう。
「おばあちゃんのごはんが一番美味しいね!」
去年の夏休み。そう言って母に叱られて以来、少女は頑なに反抗するようになっていた。嫌いなわけではなかったが、妹ばかりが可愛がられて嫉妬していたのだ。
少女は虐げられていた。母は妹ばかりを可愛がった。真新しい服を買い与えるのも、手料理を振舞うのも、学校や保育園への身支度を手伝うのも、全て妹だけ。やきもちこそ妬いていたが、少女にとってそれは普通で、ただ一生懸命に母の気を引くことだけをモットーにして生きていた。
「つまんない」
知っている子などいない秘境の地。
少女は自らが持っている服の中で、一番可愛いと思われるスカートを身に纏っていた。しかし、それを褒めてくれるものなど見つからず、祖父母でさえ幼い妹を可愛がる様に、幼い胸に大量の棘を刺して沸き起こる嫉妬を必死で治めていた。
少女は唇を尖らせると、ぐるりと辺りを見渡した。庭の奥には、裏庭へと続く細い小道が見える。白い丸石が敷き詰められ、中と外を遮断するために竹垣が庭を取り囲んでいる。
行ってみようかな。そう思わせたのは、――あっちには一人で行っちゃダメよ。と、大人達に散々言われていたからだ。
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