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その日は講義が午前中だけで午後は空いていた。
天気の良い午後でパーっと遊びに行きたかったが、友人は都合がつかなかったので、さっさと家に帰ってのんびりと過ごすことに決めた。
大学からの帰り道、ふとダッシュのことを思い出し、久しぶりにダッシュの家を覗いてみようと思った。
(あれから随分経ったからなぁ、ダッシュまだ生きてるかな)
そんなことを考えながらダッシュの家まで来ると、果たしてダッシュはそこにいた。
よかった。生きていたか。
記憶の中のダッシュより毛並みがパサついており歳を感じるが、相変わらず可愛い顔をしていた。
ダッシュは組んだ前足にアゴを乗せて、ピスピス鼻を鳴らしながら寝ている。
小声で「おいダッシュ久しぶりだな」と話しかけるとダッシュは目を開けてこっちを見た。
「ふん」
ダッシュの鼻から大きいため息が漏れた。
「なんだお前か」
とでも言っているようだ。
吠えられるかと思っていたが、予想外の塩対応に少し落ち込む。
とはいえダッシュも12歳くらいだ。犬にしてみれば年寄りなので、もう吠える元気もないのだろう。
犬の時間は人間よりもずっと早く進む。
俺は少し悲しい気持ちになった。
ダッシュと喧嘩をして、ほんの少しの間離れたつもりだったのに。
仲直りの機会もなく、ダッシュはもう死にかけの老犬になっていた。
「長生きしろよ」
俺の声にダッシュは元気なく「わふっ」と答えると軽く尻尾を何度か振った。
久しぶりにダッシュと話していると、家の方から気配を感じた。
(念のため言っておくが、家とはダッシュの住んでる小屋のことではなく、ダッシュの飼い主の家のことである)
小学生の頃ならいざ知らず、大人の俺が他人の家の犬と話してるのはまずいかもしれない。
ダッシュの飼い主とは顔見知りでもないし。
(そういえば見かけたことないな。どんな人がダッシュを飼っているんだろう)
平屋の一軒家で、そこそこ広く見えるが生活感があまりないし、子供がいる気配もない。
恐らく一人暮らしか二人暮らしだろうな。
そんな家の前に大学生の男が立っていたら、家の人は怖がってるかもしれない。
通報される前に退散することにした。
「じゃあなダッシュ」
ダッシュは俺の言葉に頷くと目を閉じた。態度は悪いが完全にこちらの言葉を理解している。賢い犬だ。
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