ダッシュ

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「御宅のワンちゃんが脱走してたんで連れてきました」 「まぁそうなの。ご親切に。どうもありがとうね」 ダッシュの鎖をお婆さんに渡そうとした瞬間、ダッシュが走り出して家の中に入って行った。 「こらダッシュ!」 お婆さんがよろけて転びそうになったので支える。 「大丈夫ですか?」 「あら、ありがとうねお兄さん」 特に問題ないようだが、お婆さんは俺に体を預けたままだ。離れて欲しいんだけど。 「ぎゃあああん」 「ワン!ワン!!ガウ!!」 ダッシュが消えた家の奥から子供の泣き声とダッシュの吠える声が聞こえた。 子供がいたのか? まずい!ダッシュは子供嫌いなんだよな、噛みついたりしたらどうしよう。 「お婆さん上がりますよ」 「えぇ、どうぞどうぞ」 お婆さんがニコニコしながら快く了承してくれたので、家に上がり奥の部屋へ行く。 声の聞こえる居間に行くと小学生くらいの女の子が部屋の隅で泣きながら小さく震えていた。 少し距離を置いてダッシュが吠えている。噛みついたりはしてないみたいだ。 俺はダッシュに近寄ると優しく抱きかかえた。中型犬なので少し重い。 抱っこするとダッシュは吠えるのをやめて俺の顔を舐め始めた。 臭い。 「ほらもう大丈夫だよ。大人しくなったから怖くないよ。すぐにダッシュは庭に戻るからね」 「いやだ!もう帰る!!」 女の子は泣きながら叫んだ。お婆さんの家に遊びに来てたんだろう。 「そうだね。少し待っててね。ダッシュを庭に繋いでくるから」 そう言ったのに女の子は俺の後ろについてきた。俺のズボンをちょこんとつまんでいる。 玄関に行くとお婆さんがボーっと座っていた。 「あの、ダッシュを庭に繋いできますね」 「あらあら、ありがとう。手間をかけるわね」 ダッシュが逃げないようにしっかり抱きかかえたまま、足だけで靴を履く。 女の子も俺の隣で靴を履いている。 「あらヨシミちゃん、どこに行くの?」 お婆さんが女の子に声をかけた。ヨシミって、最近の子にしては古風な名前だな。 「もう家に帰る」 涙声でヨシミちゃんが言う。 「帰るって何を言ってるの。ヨシミちゃんの家はここでしょ?」 ニコニコしながらお婆さんが言う。 ヨシミちゃんが俺の後ろに隠れて叫んだ。 「ここ私の家じゃないもん!!それに私ヨシミじゃないし!!」 え?
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