ダッシュ

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「あそこのお婆さん、もうかなり前から頭の方がね……」 俺の頭の包帯を巻き直しながら、母が話し始めた。 俺はソファに座って大人しく母に頭を差し出している。 あれから数日が経ち、おでこのキズは良くなってきた。 「10年くらい前にもね、小学生の女の子を連れ込んで問題になったのよね。小さい女の子を見ると自分の娘だと思い込んじゃうみたいで」 「へー、そうだったんだ。ていうか本物の娘さんはどうしてるん?介護とかできないのかね」 「それがあのお婆さん、ずっと独身で娘さんなんていないのよね」 おい、怖い話か? ともあれ、お婆さんの叫び声と女の子の泣き声、ダッシュの吠え声を聞きつけた近所の人が警察を呼んでくれた。 女の子は本当の親御さんが迎えに来て、無事に自分の家に帰った。 お婆さんは警察に抑えられ、俺は一応救急車で病院に運ばれた。 「10年前はねぇ、穏便に済んだけど今回ばかりは怪我人も出たからね。残念だけどお婆さん施設に入るみたいなのよ」 「ふーん。それでお前、ウチにいるのか?」 俺が部屋の隅に声をかけると、ダッシュは鼻息で「ふん」と返事をした。 「可愛げないなぁ。まぁお前も歳だから仕方ないか」 ダッシュはシッポをパタパタと振った。 今思えばダッシュが小学生の俺に吠え始めたのは、お婆さんが小学生を連れ込んで問題になったからかもしれない。 小さい子供をお婆さんに近づけないように、子供に吠えていたんだろう。 でも今回はダメで家に連れ込まれたから、俺を呼びに来たんだ。 「なぁダッシュ、ずっと誤解してたよ。お前は俺のこと嫌いになったってな。そうじゃなくて、お前は俺を守ってくれたんだな」 そして多分、お婆さんが問題を起こさないようにすることで、お婆さんのことも守っていたんだろう。 ダッシュはトコトコと部屋の隅から俺の足元に来ると、 「ようやく誤解がとけたか」 と言うようにワンと一声鳴いた。
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