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「あ、野々原さんからどうぞ」
「あ、あの…」
「うん」
「私も傘持ってなくて、だから、よかったら雨が上がるまでここで一緒に待っててもいいかな?」
「あ、うん。もちろん」
「ありがとう」
私は吉野くんのとなりに立ち、軒先で雨を眺めた。
眺めながらも、頭の中はパニックだった。
どうしよう、話できて隣に立てたのは良いけど話題が・・・。
「雨、上がりそうだね」
「えっ」
話しかけられてハッと我に返ると雨足はゆっくりと弱まり、晴れ間がのぞいていた。
「あ、虹だ」
ホッとしたような、少しガッカリしたような不思議な気持ちで空を見ていると、七色の虹がかかっていた。
「ホントだ。野々原さんのお陰かな」
「え?」
「だって野々原さんて、晴れるに歌って書いて『晴歌』でしょ。野々原さんが僕のところに来てすぐ雨が上がったし、まるで晴れの女神さまみたいだ」
「吉野くん・・・」
「なんちゃって。じゃ、またなー」
きらきらに晴れた空の下を、照れた笑顔を私に向けて手を振り駆けていった。
「またね」
また、もっと、たくさん吉野君のこと知りたい・・・。
私は小さく手を振りて見送りった後、手帳を取り出して明日の予定表に書き込んだ。
『吉野くんに挨拶をする』
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