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唐紅ないに染まる夜は
「運の悪いひと」
香蓮に対して異形の形をした動物は言った。外見は狐だが尻尾は二股に分かれている。細い目が開けば銀色の眼差しが香蓮をあわれみの色で見詰めていた。
香蓮は息を弾ませていた。関わってはいけないものに関わったことで気が動転していたといえる。言葉を喋る銀狐のこともあったがその後ろに佇む女性にも恐怖を抱いていたのだ。
女性は着物を着ていた。藍染の振り袖に付着した赤い返り血が折角の布地に染みを残している。つい先程仕留めた妖怪の血痕であった。女性は刀を鞘に納めると銀狐を拾い上げた。
「お前、名前は?」
香蓮は女性の問い掛けに一泊遅れて答えた。
「香蓮。苗字はない」
「そう、香蓮というのね。私は紅翠露。妖魔抜刀の一族だ。見られたからには仕方がない。香蓮──今日から私と共に来い」
紅家はこの日の国では妖魔退治の名家である。
紅蓮は森に迷いこみ、妖魔退治の現場を見てしまったのだ。
隠密活動を専門とする紅家の秘密を漏らせば殺される。
昔からの言い伝えを香蓮は村人から散々聞かされてきた。
森の木々がざわざわと風に揺れて不穏な空気をばら蒔いている。
反抗も反論もできる状態ではなかった。
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