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追い詰められた香蓮は女の美しい眼差しに承諾する他なかった。
それに村を飛び出したのは香蓮自身であり、いく宛もないことを理解している。
「香蓮からもひとの血の臭い」
銀狐が容赦なく言う。
香蓮は手を見せた。
「洗っても取れなかったようですね」
「そうか、だから妖魔が暴れたか。奴等はお前のような同類が大好きだ。さあ、来い。丁度、僕のひとつも欲しかったところだ」
「何をいっているんでしょうか。僕はその主を殺して来たんですよ?」
「ほう、奴隷の脱走者か。尚更いい。ついてこい」
女は歩き出した。
香蓮は深く息を吐き捨てると歩き出した。
紅家に逆らえば何をされるかわからない。
折角の自由をまた奪われた気がした。
背中に付けられて消えない鞭後がただ痛む。
翠露と名乗った女は振り替えることもせず森を歩んでいく。
木々の葉は唐紅に染まり、強い風に揺らめき、空には青い月が宿る。
暗がりを照らすのは月明かりだけであったが、翠露の足取りは軽く、山育ちの香蓮でも追い付くことができなかった。
ひたすらに獣道を歩かされて夜半がすぎるころ、見えてきたのは小さな集落であった。
集落の名前を烏間と言った。紅家が代々住んでいる場所で普段は結界が張ってあり、余所者は入ることができないようにされている。
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