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隠密家業を扱うために存在すらうやむやにすることで彼らは生きている。
香蓮は案内された一軒家の大きさに目を見張る。
鬼瓦の立派な屋根が特徴の広い屋敷だった。中庭には池があり、鯉が泳いでいる。盆栽に松の木、手入れされた灯篭が夜を彩る風流な世界は、香蓮には初めてのものであった。
香蓮が通された六畳の部屋の壁には見事な水墨画が飾られていた。
翠露は座蒲団に座ると煙管に火を点けて煙を漂わせる。
香蓮は翠露の出方を見ながらも、下女が用意した座蒲団に胡座を掻いた。
茶菓子とお茶が用意されたが手は出さずに翠露が口を開くことを待つ。
殺されるならばこのような場所へはつれては来ない。
香蓮に分かるのはそれだけであった。
翠露は着替えもせずに煙管を吹かし、黙っている香蓮に言った。
「香蓮。お前は妖魔が見えたのか?」
短い質問に香蓮は瞬いた。
「見えましたが。それがなにか?」
「そうか、お前は妖魔が見えるのか。両親は紅家の出身か?」
香蓮は驚いた。
考えもしない質問であった。
「両親のことは分かりません。俺は生まれたときに奴隷として拾われて育てられました。まあ、最近、嫌気が差して主を殺して村を飛び出してきたんですが」
「いく宛もなく、あの森に迷いこむと言うことがどれだけ危険なことか分かっているのか?」
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