唐紅ないに染まる夜は

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「無我夢中でさ迷っていたので何も考えてはおりませんでした」 香蓮は包み隠さず正直に答えた。 翠露は怪訝な表情を見せる。 「森には入れるのはこの村で育った者だけだ。またはその血縁者ならば私も説明が着く。しかしそうでないとすればお前が何者かを探る必要がある」 「それは、一体どういうことですか?」 「お前が妖魔の子ならば殺さねばならない」 「冗談はよしてください」 香蓮は背筋に悪寒を感じた。 自由を手にいれてまだ数日だ。 儚く脆く消えるのは残酷なだけだと舌を打つ。 「この刀で腕を斬れ。人間、もしくは私と同じ血を引いているならば斬れはしない」 煙管を置いた翠露が先程まで振り回していた刀を突きだした。 翠露の膝の上では銀狐が二股の尻尾を揺らしてあくびをする。香蓮の緊張感など気にもとめていないようすであった。 「俺は人間です」 「証拠がなかろう」 鞘から抜かれた刀を香蓮は渋々受け取って、左手首に刃を押し付ける。 心臓が壊れそうだった。 手先が震える感覚が刃先まで伝わる。 人間だと言う証拠はどこにもないのだから恐怖が勝るのも仕方がない。 「引け。どのみち傷などつくことはない」 翠露は自信ありげに煙管の灰を払った。 かつんと小さな音が響く。 香蓮はもう一度訊ねた。     
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