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翠露は淡々と切り返した。
香蓮は話だけでも聞いてやろうかと白露に目線を投じる。
白露は細い瞳をさらに捕捉した。
「やってもらいたいのは霞場の陽菜乃姫の奪還」
「霞城の姫様をどうする気だ」
香蓮は驚くばかりであった。
霞城の陽菜乃姫といえば日の国でも美人と言われる部類の女である。
今年になって十九を迎えると風の噂で聞いている。
「妖魔の娘である可能性がある。香蓮に確かめて貰いたい」
白露はっきりそう告げる。
「なぜ、俺なんですか?」
「あの蒼の森が貴方を拒まなかったから」
蒼の森に入ることができる人間は少ない。
普通の人間には踏み込めない領域なのだ。
香蓮は黙った。
自分でも状況が呑み込めなかったのだ。
「殺ってくれるな?」
「待ってくれ、それは俺に陽菜乃姫を殺せと言うのか?」
「そうだ。白黒つけ次第だけれども」
「そんなことできるわけがありません」
「しかし妖魔が見えるのだろう。それはすなわち、我らの血を引くものと言うことだ」
ふっと割り込んできた翠露の一言に言葉を失う。
香蓮には確かに妖魔が見えていた。
翠露の一太刀もみている。
だがこのような展開になることを予測はしていなかった。
「できるわけがない」
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