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人魚姫
二月十四日は、いつも憂鬱だ。
「ルナ」
ダンスレッスンの休憩時間、スタジオの片隅でスマートフォンをいじりながら水が入ったペットボトルを傾けていた私のもとに、歌乃やってきた。片手には案の定、小ぶりな紙袋を持っている。今日にふさわしいピンクと白い色をした、レースとハートの絵柄の紙袋。どこかの店のロゴは入っていない。わざわざ今日のために用意したのだろう。私のブログを介してこれを見ることになるファンもきっと喜ぶ。……私と歌乃は、アイドルなのだ。
私たちのグループのメンバーは、私とルナ、たったの二人。メンバー間の交流は、当然、私とルナの間にしか発生しようがない。だからこそ、他のアイドルグループよりずっと積極的に、私たちの細かなやりとりを発信していこうと決めた。そのための唯一の媒体がブログだ。あのときは、きっと楽しいだろうなんて漠然と想像していたけど、今の私には、そんな思いですらちょっと重たい。
「何?」
憂鬱さが、とぼけるなんていう、無意味な行動に走らせた。頭なんてまったく使ってない、反射的な行動だった。
「わかってるでしょ」
「……まあねー」
自分でもちょっと驚くくらい、この時期が苦手らしい。
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