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私たち、今ではそれなりにうまくやれているけど、最初のうちは険悪だった。同じ仕事場に向かって、同じ部屋で過ごしているのに、一言も交わさない日だってたくさんあるくらい。そんな関係のときに迎えた最初のバレンタイン、私も歌乃もチョコレートは用意していなかった。そもそもあの日の私たちも、他の人同様、一言も交わさなかった。私は、私たちってそんなものだと違和感なく受け入れたのだけれど、歌乃がバレンタインの準備をしなかったのには訳があった。
当時の私たちに、ファンへ向けて直接発信する手段はなかった。だから歌乃は、ファンの目に触れる可能性がないチョコレートを用意するのは時間の無駄と判断して、準備しなかったらしい。
けれど、その翌年、私たちにブログという手段が現れてしまった。歌乃はさっそくブログのネタにちょうどいいからとチョコレートを用意したけれど、私は去年お互い渡さなかったから今年もいらないだろうと思い込んで何も用意してなかった。私はすぐに買ってくるとその場で言ったのだけど、歌乃はそれを認めてくれなかった。
「ルナ、私、すごく気合い入れた手作りチョコ作ってきたんだ。もちろんラッピングからそうとう気合い入ってる。それなのに、そっちは出来合いのものって、それはアイドル的に微妙すぎ。私がルナの大ファンみたい。そんな一方的な関係っぽいの、私は絶対に嫌。どうしても作りたくないっていうなら……、そうだ、いっそホワイトデーに何かちょうだいよ。お返しってことで。ね?」
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