序章と少女の夢

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山の麓についた頃には少女の膝のあたりまで浸水していた。 山を登りはじめたころ道は狭くなり、少女はフランカの斜め後ろにはぐれないようについていた。 土砂崩れに注意しながら登っていく。 すると不意に少女は後ろから割り込んできた男に横側に突き飛ばされた。 男は少女に一瞥くれることもなく、ひたすら前に割り込みながら人の波に流れていった。 「フランカさん!」 少女はフランカを呼んだが豪雨の音と悲鳴、怒号に声をかき消された。 起き上がった頃には声に気づくことなく、フランカも人の波にまぎれ見えなくなっていった。 少女は泣き出しそうになったが我慢して前の人について行った。 大丈夫、何度も登った山だ。 少女は自分に言い聞かせた。 この山の傾斜は比較的穏やかなほうだったが時折険しい斜面もあった。 大人は平気で登っていくが、ぬかるみもあり少女は迂回して緩やかな斜面を登るしかなかった。 次第に少女は人の波の後方についていくしかなくなった。 また急な斜面に出くわし、少し迂回して登りやすい場所を探り、なんとかその斜面を登っ たときには暗さも相まって前に人は見えなくなっていた。 後ろを振り返っても誰もいない。 その時ひときわ大きな雷が鳴った。 少女は駆り立てられたように走り出した。 どっちが本当の道かなんてわからない。 泣き叫びながら走り登るしかなかった。 完全に人の通っていた道から外れた少女は、やがて無理に大きな斜面を登ろうとして転げ落ちた。 落ちた先は10平米ほどの平地だった。 少女は泥まみれになりながらも立ち上がった。 するとみるみる足元に土砂流が流れ込んできた。 少女が転がってきたほうはほとんど断崖の勾配で登ることはできなかった。 その方向の反対に大人2人分くらいの高さの小さな山があった。 なんとかよじ登り山の上にポツンと生えていた木にしがみついた。 土砂流は次第に水位を増していく。 強い突風が吹いた。 少女は折れそうな木に命を揺すられる。 土砂流がこくこくとせまりくる様を、少女は泣きながら見ているしかなかった。 すると土砂流が流れてくる方向から大きく飛沫を上げ、打ち上がって来た波が少女を襲った。
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