時間は遡って

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 15:15頃 船は更に進んで、もう少しで視界から消えそうな位置へ。  彼はまだ現れない。当時はまだガラ携だった私は、待ち合わせ時間以降は3分も待たないにメールの受信を確認。  でも、来たのはどうでもいいメールばかりで、彼からは来ていない。  待ち合わせでこんなに彼を待ったのは初めてのことだった。   待たされることに慣れていなかった私は、「メールくらいくれたって」と、ちょっとご立腹。  約束の時の彼の応対のこともあり、こっちの気持ちに無神経な彼に、心配よりもだんだんと不満が大きくなっていく。  私の心に襲う妙な不安。そんな心が私をいつもとは違う人格にしてしまったのかもしれない。いや、それが意固地になった時の私の真の姿なのかもしれない。  私は意固地にも、絶対にこっちから連絡は取らないと決め込んでしまう。  普段の私だったら自分から連絡していたのに  いつもだったら、むしろ来ない彼のことを心配をしていたのに  付き合い始めの頃は、いつまでも待とうと思っていたのに  過ぎ去ってしまった今なら冷静に思う。でも、その時の私は魔法にでも掛かったように、いつもの私ではなかった。  15:30頃 更に船は進んで行き沿岸を通る高速道路の陰に消えて行く。  私は、直ぐに船の代替物を探していた。  変わりゆくのものと言えば、私の目の前のアイスココアの入ったグラスの中の氷。  アイスココアは三分の一ほど残っていて、氷も小さくはなっていたもののまだ、しっかりと形は残っている。  いくら何でも、これが解ける前には来るだろう。そんな信じたい気持ちと、腹いせで、この氷が解けるまでは待つけれど、解けてしまったら本当に帰ってしまおう。そんな心で揺れる。  でも、なんだかんだ考えていても、心の底では彼が来ることを疑っていないから。  彼はなかなか来ない。  最初は意地になって氷が早く解けるようにかき混ぜたり、氷の窪みにストローを刺してぐりぐり回してみたり。それを時間が経つにつれ、その行動を後悔してみたりして。  何だかんだ言っても、まだ彼が来ると信じているから。  彼はまだ来ない。  残りのココアを飲んだ方が氷が解けないのか、ココアが残っていた方が氷が解けないのか真剣に悩んでみる。結論は、結局飲むことに。  まだ来ると信じている気持ちの方が大きいから。
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