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第4章 幼い日の、彼女と僕の冒険
儚乃ちゃんは、人間の時から底抜けに明るくて、ちょっと引っ込み思案だった僕を、いつも引っ張ってくれていた。
そんなことを、僕は思い出していた。
あれは、確か小学校5年生のころだったと思う。
僕と彼女は、二人で龍の仙人が住むという龍仙洞という洞窟に探険に出掛けた。
臆病な僕は、入口で躊躇して、入ろうとしなかったけど、彼女は手を引っ張ってぐいぐいと、中へ入っていった。
洞窟の中は、別世界だった。
氷柱みたいな尖った奴が上から生えてたり、細い道が続いたと思ったら、小川があったり。
でも、やっぱり僕は恐かった。
「ねぇ、帰ろうよ」
儚乃ちゃんは、そんな言葉なんか気にせず、ワクワクした様子で目を輝かせ、僕の手を引っ張った。
「まだよ、まだまだ。この奥に、『龍の宝物』があるんだから!」
彼女は、そう言って走り出した。
「待って! 走ったら危ない、よ……あっ!」
危ないのは、僕の方だった。
湿った洞窟の床で、足を滑らせて、崖下の小川に落ちそうになった。
「慈恩君!」
彼女は、しっかりと手を握り締めて、僕を引っ張りあげてくれた。
「し、死ぬかと思った」
「私がいるから、大丈夫! 私、不死身なんだから!」
不死身……?
もしかして、彼女が死神にお願いしたことというのは、「不死身」になりたいということだったのか?
僕は、それを確認するかのように彼女の顔を見た。
スースー
僕を食べようとした時の顔とは思えない、あどけない平和な寝顔だった。
(そういえば、僕たちはあのあと、どうしたんだっけ? 龍の宝物、見つけたんだったかな?)
なぜか、そこから先が思い出せなかった。
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