グリフィンから帽子の君へ

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グリフィンから帽子の君へ

 ぼくは本牧に向かう産業道路を、山手駅からの道が突きあたるあたりで左に折れたところにある、幻獣の名前を持った独り者用のマンションに住んでいる者です。  夕方によく、その大通りの歩道をたどって、元町の方向に向かって散歩しています。  在宅でプログラミングというものを請け負っていて、部屋の中で、一日中パソコンの画面に向かって作業しています。  夜も作業が残っていることが多くて、元町や中華街のほうに食事に行こうとかするわけではありません。  ただ、その手前の、産業道路がトンネルに吸い込まれて行くあたりが気になって、夕方になると落ち着かなくなり、そちらのほうに歩いて行ってしまうのです。  その崖の上には道路が通っていて、教会や昔の洋館があったり、公園に向かっていたりと、別世界のような明るい世界が広がっているのは「知って」はいますが、どっしりとしたトンネルの横にはうっそうと木々が茂っていて暗く、別の生命を宿しているかのようで、とても直接に上の豊かな地区の日常につながっているようには思えません。  そして、歩道から続く細い通路からのぞきこむと、ごうごうと車が通り抜けて行くトンネルの中は暗く、湿っぽく、意外に長く、ぼくは何かとてつもない圧迫感を感じて、その通路を通り抜けて行くことができません。これも、その先のにぎやかな地域へと直接につながっているようにはどうしても感じられないのです。  あるいは、それがあの繁華街につながっているのだとして、それは、このトンネルを通った時点でどこか「別の時と場所」に連結させられてしまっているようにも感じられる。ぼくは、その先の世界自体にも違和感を抱いているは認めましょう。  繰り返しになりますが、ぼくは元町や中華街に食事に行きたくてそのトンネルのところまで歩いて行くわけではないのです。
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