グリフィンから帽子の君へ

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 トンネルのふもとが暗くなって来る夕暮れ時には、何か巨きなものが、まだ上のほうは明るい空から舞い降りて来て、そのトンネルの入り口にのしかかって来る、そんな気がして、そこに歩いて行ってしまうのです。  そこに向かう時の気持ちは、何かを見届けようとか、闘う決意をしようとか、そういったものに近い部分があるかもしれません。  けれどもそこにたたずんで、急速に闇が下りて来るのを見ているうちに、トンネルから吹き上げて来るしめった空気と騒音に惑わされるうちに、巨きなものの破片も、自分の決意の意味もわからなくなってしまう。  ぼくは、人生における目的も持たず、自分が何者かも知らず、人とほとんど関わりを持つこともなく、ただパソコンの上で作業をして行く職人のようなもので、単に夕方になって座り疲れて、肩が痛い腰が痛い目がぼやけるお腹がすいたなどと思いながら、人通りのない、繁華街や公園に挟まれて忘れられたような谷の区域をふらふらと歩いて、また自分の作業拠点である部屋に戻るだけの自分を自覚することになります。  そうして産業道路脇の歩道を引き返す時に、いつも灯りの灯っている工房がることに気が付きました。  そもそもあまりにぎやかな通りではなく、閉店した店や人家も多い上に、行きはまだ街に午後の明るさも残っているので、道脇にぽつりぽつりとある小さな店などの中は見えない。ドアを開けているクリーニング店が目につくくらいです。そして、日没を越えた帰りの時間になると、残っている店さえもう閉店してしまっていたりする。  光を灯しているその工房が、帰り道でいつも新しく発見された島のように、わびしい通りの中に浮かび上がって見えて来るのはそのせいだったでしょう。
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