グリフィンから帽子の君へ

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 さとみさん、あなたが闘っている人だということを知りました。  闘う相手も見失ったまま、不安と空虚に歩き回っていたぼくが、夕方にあの窓の前を通るたびに、あなたの姿に生きる力をもらえるように感じた理由がわかったような気がしました。    あまりうまく言えません。だれかとこの丘の坂道を上がったり下りたりしながら散歩をしてみたいと、はじめて思いました。  はじめて、まだ明るい時間に丘の上の道を歩いて、港の見える公園のはずれで、並んで立って海を見てみたい、もっと先の大きな公園まで歩いて、港のてすりにもたれて、外国から来た大きな客船を指さしたりしながら炭酸水を飲んでみたい、などと思いました。  工房のメールアドレスにメールで送っても怪しいし、誰もに読めてしまうのでかえってご迷惑な騒ぎになってしまうかもしれないと思いました。散歩の帰りに、工房のポストに投函します。  「さとみ様」とだけ書いた封筒は十分に怪しくて、捨てられてしまうかもしれませんけれども。  人は、どうやって、名前も知らない人に、怪しまれもせずに連絡できるのでしょう。    四月二十七日の土曜日の十八時、港の見える丘公園の展望台のはずれで、黒い長いコートを着て立っています。やせ型の、背の高い、若い男です。  もしこの手紙を読んでいただけることがあったなら、そして、もし、ただの好奇心や、迷惑だとのお叱りの言葉だけでも伝えようと思っていただけることがあったなら、夕暮れが下りて来る前に、声をかけてみてください。 「グリフィン」 と。
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