アイスクリームがとけるまで

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思い出はそこで急に途切れた、 お父さんとお母さんが寝ているシュラフの色が思い出せなくなった。 そして、お父さんとお母さんの顔も思い出せなくなってきた。 全てを思い出せなくなった時、 お皿の中のアイスクリームはとけきっていた。 今の私には子供時代の記憶が無い、父も母もいない。身体の左手と左足が思いどおりに動かせない。 過去、私は何か大きな事故にあったらしい、毎月、名も知らぬ会社から結構な金額と謝罪の言葉がぎっしり詰まった手紙が数十年間送られ続けている。 どんな事故だったのか、誰も教えてくれない。 だけど、この峠の茶屋で、アイスクリームがとけるまでの僅かな時間、父と母と一緒だったころの楽しい出来事を思い出すことができた。 秋の日の峠の茶屋、アイスクリームがとけるまでの間、お父さんとお母さんと一緒に出掛けた収穫祭のことを思い出した。 付近の農家がそれぞれの畑で採れた新米や野菜などを祭りに持ち寄った、新米の炊ける香り、天然素材の味噌と共に煮込まれる野菜の香り、お父さんは地元伝統の和太鼓チームの一員だった。     
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