アイスクリームがとけるまで

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だけど、私はお父さんの演舞よりも、屋台の食べ物に夢中だった、焼き団子と豚汁を一緒に食べたかったけど、お母さんに「どちらか一つにしなさい」と言われて、どちらを食べようか迷っていた。 でも、結局どちらを食べたのか思い出せなかった。 急に屋台の食べ物が思い出せなくなってきた、 「お願い、もう少しだけ思い出していたいの」 食べ物を一生懸命思い出そうとしている間に、お父さんとお母さんの顔が分からなくなっていた、 涙が頬を伝う、でも、すぐに、なぜ泣いていたのかも忘れてしまう。 テーブルの上、お皿の中のアイスクリームがとけていた。 峠の冬は想像以上に寒い、アイスクリームもなかなかとけず、父と母と一緒だったころをたくさん思い出せる、でも、冬の間、峠の茶屋は閉鎖されている。 春、見慣れた古ぼけたテーブルの上にアイスクリームが並んでいた。 お父さんとお母さんと一緒に知り合いの農家の田植えを手伝いに行ったことを思い出していた。 田んぼの泥の中に、恐る恐る素足を入れてみた、最初は妙な感じだったけど、泥のヌルヌル感とひんやり感が心地良くなってきた、田植えはすぐに飽きて、田んぼの中のおたまじゃくしや昆虫を追いかけ始めた、途中、植えたばかりの稲を踏みつけてお母さんに叱られた、何か大きな昆虫を捕まえた気がする、お父さんに見せると驚いていた、そして、その虫の名前を教えてくれたのだけど、その名前は思いだせなかった。     
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