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春の日差しの中、お皿のアイスクリームはとけきっていた。
私は泣いていたらしい、
アイスクリームがとけた後は何も思い出せなかった。
また夏がきた、目の前にアイスクリームが二つ並んでいる、私は心を静めて目を閉じようとしていた。
感覚で分かった、暑苦しくて、むさ苦しくて、日に焼けた汗と土の匂い、そんなヤツが突然、私の静かな世界に踏み込んできた。
恐る恐る目を開ける、サイクリストが一万円札をヒラヒラさせて必死に何かを懇願している。
こんな小さな峠の茶屋、一万円札のお釣りなんか用意してないよと思った。
その暑苦しいヤツは、それでも必死の茶屋の婆さんに何か頼みこんでいる。
ここの峠の登り道は国体の自転車競技のコースにもなったほどの急坂で難所だった、近郊の脚自慢の自転車乗りが集まってくる。
この暑苦しいヤツも、峠の茶屋でのアイスクリームをモチベーションに、延々と続く急坂を自転車で登り切ってきたと思った。
自分へのご褒美のアイスクリームがお預けになった暑苦しいヤツに対して、少し可哀そうになった、でも「小銭を用意してないアンタがバカ」哀れみの気持ちを打ち消した。
とてもじゃないけど、父と母の静かな時間に入っていける気分になれなかった。
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