アイスクリームがとけるまで

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父と母を思い出すアイスクリームを暑苦しいヤツの方に数センチ差し出した、「どうぞ召し上がり下さい」などと言うことは出来なかった。 その暑苦しいヤツはアイスクリームと私を交互に見比べ、最後にヤツの視線は私で止まった。 ヤツは不思議そうに自分で自分を指さした。私は小さく頷くのが精いっぱいだった。 クジラに足が生えて古い店の中を歩くと、きっとこのような凄まじい足音がするのだろう。 その暑苦しいヤツは、私のテーブルのところまでやってくると、何度も頭をペコペコ下げながら、巨大洞窟のような大口の中にアイスクリームを一気に放り込んだ。 その後「ガハハハッ美味しかった、助かった、どうもありがとう、ガハハハッ」と延々と大声で笑い続けた。 父と母の事が思い出せなくなる、私は少し悲しくなった。 「えっアイスクリーム、食べちゃいけなかったのですか?ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」 その暑苦しいヤツは腰を90度以上にまげ、今にも泣きだしそうになりながら、何度も謝り続けた。 そいつが頭を下げるたび、風圧で茶屋の中のモノが吹きとばされないか心配になった。 「大丈夫です、まつ毛が目に入っただけです」 小声で白い嘘を囁くのがやっとだった。 「なんだ、ヨカッタ、ヨカッタ、ごちそうさま、ごちそうさま、美味しかった、美味しかった、ガハハハッ、ガハハハッ」     
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