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 ホテルの部屋に入るため、カードキーを刺そうとするが手が震えて上手く刺さらない。両手でゆっくり確かに差し込んでドアを開けると、真っ暗な部屋が僕を待っていた。キーを所定の位置に差し込むと電気が通り部屋は光でいっぱいになった。今この部屋は星のような夜景の一部になった。妙に座り心地のいいイスに上着も脱がずに座り込み、深く息を吐く。低気圧のせいか、妙に感傷的になる。  思い返せば、苦しい旅だった。慣れない都会に揉まれ疲労困憊で電車を間違えたりもした。タクシーの運転手は優しく応援してくれた。ホテルの人は無理を言う僕にホテルの備品である時計を貸してくれた。試験官は優しく微笑み見守ってくれた。駅員さんは拒むことなく親身に道を案内してくれた。飛行機の案内人は荷物をバスに置き忘れたときにサポートしてくれた。搭乗手続きのお姉さんは右も左も分からない僕をなんとか飛行機に乗せてくれた。もちろん、飛行機代を出してくれたのは両親だし、準備を手伝ってくれたのもそうだった。考えてみれば、僕が受験するためにこれらの助けは不可欠だったのだ。彼らが助けてくれたから、凝った心は解され、無事に試験会場にたどり着いて試験を受けることが出来たのだ。自分だけの力ではなかった。むしろそれらの助けが、僕の本来の力を発揮するために必要だったと思う。だからこそ、いい結果を残せなかったことが悔しいんだ ろう。申し訳なくて涙を零すんだろう。     
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