ありがとう

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 都会の人は冷たいとかいう人がいる。けれど僕はそうは思わない。東京で関わりを持った人は皆確かな温もりを感じた。その度に僕にも伝わり心を温める。なんども助けられ、その度に言った言葉。気付くのが難しくても、確かにそこにある言葉。僕はむしろ東京に出てきて初めて、今自分が立っている場所の基盤には、助けてくれる周囲の優しさがあるのだと気付いた。当たり前のように周りにあった関係性から切り離されて、膨大な数の個人の濁流の中に放り込まれたことでかえって人と人の関係を強く意識した。僕がこの街に最後に残していくのは至極単純な言葉であり、人間同士の繋がりが紡ぐ言葉だ。  「ありがとう」  一日に何万と人が行き来する街でそれはたちまちの内に喧騒に消えるだろう。それでも僕は言わないでは居られない。今この心を支配するのは、僕の背中を押すこの数多の手に、ただただ報いたい気持ちだけだ。
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