13人が本棚に入れています
本棚に追加
神様は黒い服になってから、よく私と話してくださるようになった。お互いに望む言葉が返って来ないやりとりを、オリヴィア様とは楽しめたのだけれど、あなたとは駄目だったわ、神様。だってあなた、優しいけれど笑顔じゃないから。私が声を出せなくてもいいんだって、思わせてくださらないから。
オリヴィア様のお役目は、いつしか私のものになっていた。私の靴を作る革を買うのだと、危ないと言っていた町へ出て行くあなたを、どんなに呼んで止めようとしたことか。疲れ切って帰ってきたあなたに、どんなに私が怒ったか。でも数日後、出来上がった靴を見せて「おまえのためだよ」と囁く、そのときばかりは固い表情が綻ぶものだから、つい許してしまった。
私の足先が少しだけ重くなった翌日、またあなたは出て行った。贈り物をされたばかりで頭ごなしに怒れない私に、今度は黒地に金や銀で細かな絵が描かれた、綺麗な箱を持ち帰ったわね。丸みを帯びた蓋を開けて、「宝箱みたいだろう」と微笑んだわ。
「これは東にある小さな島国の工芸品でね。以前僕の人形を納めた貴族が持っていたのを、譲ってもらったんだ。ちょうど隣の国へ引っ越すそうで、弔意も込めてとすぐに渡してくれたよ。……宝箱、か。そう、今から宝箱になるんだ。でも、おまえにとっては……」
あなたの言葉は難しかったわ。でも、私のためと言ってくださるものは何でも嬉しかったし、その箱はとても綺麗で気に入ったの。
だから――せっせと箱に小さなクッションやお花を詰めたあなたが、あろうことか私をその中に入れて蓋をしたとき、ちょっと今改めて言えないような言葉で罵ったわ。だって中に入ってしまったら真暗で、せっかくの綺麗な模様も何もかも、見えなくなってしまったのだから。
(――……)
「すまないな……ウィステリア。この選択が絶対に正しいとは思わない。だが彼女を、血筋の者もいない、あんなところに独りにしておくのは……」
箱詰めの理由としては、よく分からない言葉だったわ。
最初のコメントを投稿しよう!