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あなたをどうして神様と呼ぶようになったのか、それは憶えているわ。いつも私に微笑みかけ、たくさん話しかけてくださった、あの優しい奥様、オリヴィア様。彼女が私を抱き上げるとき、決まってあなたにこう言ったわ。
「あなたは私の神様ね!」
本当のあなたのお名前を、私は聞いたことがあったかしら。私が座っていたあなたの工房では、いつも神様と呼ばれていた。オリヴィア様は悪戯っぽく笑っていたけれど、それはあなたが照れて肩をすくめるのを楽しんでいただけ。彼女は本当に、あなたを神様みたいに思っていたのよ。
オリヴィア様が私に名前をつけてくださった日。私の部品が全部繋がった朝。初めて彼女の体温を感じた、あのとき。しなやかな指先がまだ、ためらいがちだった。でも裸の私を抱きしめて、あなたに「ありがとう!」と叫んだわね。
「この子が、私の娘なのね。私の大好きな花の名前をつけるわ! この人形工房の名前と同じよ。この季節も、次に来る冬も過ぎ去ったら、お屋敷の壁を飾ってくれるわ――ウィステリア!」
「喜んでくれると僕も嬉しいが、あまりはしゃぐと疲れてしまうよ。まあ、そうだな、その子の目に藤の花色のガラスを吹き付けて良かったよ」
その日工房に夜が来て、神様が大あくびをしながら別のお部屋へ行ってしまったあと。いくつか灯っていたランプを最後の一つだけ残して、オリヴィア様は私に「おやすみなさい」と言ってくださった。
「眠る前のご挨拶よ、私の可愛い子。あなたがもし、おやすみって返してくれたら、どんなに嬉しいでしょうねえ。でも、お腹の中の赤ちゃんに話しかけるときって、こんな気持ちかもしれないわ。お返事がなくたって、私、楽しいのよ。子どもを授かれない私には、経験できないはずだった楽しみなの。あの人は本当に、私の神様ね……」
まだ髪の毛のない私の頭を撫でる手が震えていた。私は、おやすみなさいと呟いてみたけれど、なぜか反応がないので戸惑ったわ。胸の中は空っぽなのに、何かがざわざわとせり上がって来るような感じがした――あれが、気が急くという感覚だったのね。だけど扉の向こうから聞こえた、「どうしたんだい? もう遅い、君も一緒に休むんだよ」という声に答えて、最後のランプが消されてしまうと――喉元まで上がって来ていた何かが崩れて、とたんに虚しさに取って代わったわ。
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