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わかってる。
感情移入しすぎだと、いつも言われる。それでも、止めるわけにはいかない。
だって、彼女は何も悪くない。ただ、愛しい人を待っているだけなのだ。彼女のせいで冬が長引いて、困っている人たちがいるのだとしても。力ずくで祓うような人たちには任せたくない。
もう、会うことはできない。ならばせめて、残りの短い時間、自分を大切にしてほしい。
「きっともう、生きていません。だからもう、」
「わかってる。でも、私は……」
途切れた言葉。とさりと落ちた日傘。
顔をあげる。彼女は驚きの表情を浮かべていた。そうしてすぐに、花が綻ぶように満開の笑顔を浮かべる。
視線の先を追った。
そこには若い男性が一人、立っていた。一枝の桜を手に。
「吉野さんっ……」
「ようやく、会えた」
その人の言葉に弾かれたように、彼女が駆け寄る。触れようとのびた手は、けれど服の裾を掴むにとどまる。
「会いたかったっ。ずっと、ずっと」
「うん。時間がかかってごめん」
何度も、何度も彼女は首を振る。
「桜。これを見せたくて。西ではもう、咲いているから」
「吉野さんっ」
何で。どうして。
生きていたとしても、年齢が違いすぎる。それなのに。
「ずっと、会いたかった。ようやく会えた」
「待ってた。もう諦めてたけど、それでも」
愛しそうに目を細めて、彼は彼女の頬に触れた。互いの存在を実感するように見つめ合う。
「桜」
「はい」
彼が、彼女を強く抱きしめる。彼女も、彼の背に腕を回した。そうして、
そうして、彼女はとけて消えた。
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