終電

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そして、互いの身の上話を始めたのだった。 「長谷川君、新しい会社でも活躍していたのかしら?」 「いや、全然ダメっすよ。頑張ろうとは思ってたんすけどね、全然上司と話が合わなくて」 「そう、色々と大変だったのね」 「そうなんですよ。今日も怒鳴られて、ミスも着せられて……。ところで佐伯先輩はどうです? やっぱ前みたいにバリバリ働いてる感じですか?」 そんな風に長谷川が問いかけると、佐伯はしばらく悩んでこたえる。 「ううん、全然ダメだった。自分でもキャパオーバーなくらい仕事を抱えちゃって、でも助けも求められなくて……」 「しっかりしてくださいよ先輩! 俺、あの会社で佐伯先輩だけは尊敬してたんすから。部下なんてバシバシ使ったらいいんすよ。俺の時みたいに」 俯きながら答える佐伯に、酔った勢いもあるのか長谷川は彼女の背中をバンバンと叩きながら励ます。その行動に佐伯は驚いた顔をしたが、手で顔を隠しながらありがとうと小さく呟いたのだった。 話をしている内に電車が動き出す。ガタゴトと心地よい揺れを感じながら、長谷川と佐伯は昔話に花を咲かせたのだった。 ガタン、ゴトンと電車は揺れる。そして窓の外では神々しい光を帯びた夜桜が舞っていた。 花見用に照らされたライトアップのせいか桃色に輝いている。 何とも言えぬ光景に、男は息を呑む。 「綺麗だなぁ……俺、夢でも見てんのかなぁ。憧れてた先輩とこうやって電車で居合わせるなんて」 そんな風に長谷川は思う。頬を紅潮させへらへらと笑って見せると、佐伯は長谷川を見て固まっていた。 「長谷川君、まさか……」
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