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佐伯がそう言いかけた所でガタンと一際大きく電車が揺れた。すると、いつの間にか車窓を流れる景色が変わっていた。終電だというのに、太陽が緑色の山々を照らしている。
「なんか、帰省する時に見る景色みたいっすね。変だなー」
景色を見ながら長谷川が呟いた時、周りの乗客も窓の外を食い入るように見ていた。
ある者は涙を浮かべ、ある者は微笑みながら。
そんな中、佐伯だけが真剣な面持ちで長谷川を見ていた。
「次はー『はざまー』『はざまー』」
気の抜けるような車内のアナウンスが響くと、電車のスピードが緩やかになってゆく。
すると、佐伯が長谷川の腕を掴んだのだった。
「出るよ!」
突然険しい顔をした佐伯に長谷川は戸惑う。
「ちょっと、まだ俺の降りる駅じゃないっすよ!」
「いいから!! 早く!」
そう言ってぐいぐいと腕を引っ張られた長谷川は出口へと連れて行かれたのだった。
やがて電車が停車すると、出口が開いたと同時に佐伯が背中を突き飛ばす。
つんのめるようにして長谷川が車外へ出たかと思うと、発車の合図が鳴る。
終電を逃がしてしまえば、あとはもうタクシーしかないのだ。長谷川はすぐさま電車を振り向くが、
「……あなたは生き抜いて!」
彼女がそう言うと、すぐにドアが閉まってしまった。そして電車は走り出す。
「ちょっと! なんなんですか!?」
彼がわめいても、電車の音にその声がかき消されてしまう。
そして大声を出したせいかめまいを感じると、そのまま意識を手放したのだった。
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