ブラックコーヒーから

コーヒーはブラックで

「そう。……瑞希って意外と出来事をよく分析できるよね」
「全部言い直さなくたって」
　周りでは授業終わりの学生がわいわいとお喋りをしているから、彼らだけ孤立することはない。おかげで熱くなりかけた頬もすぐに冷えた。
　伸ばした手をちょっとだけ前に押しやると、空いた手が向こうから出て来た。
　冷たい手だった。瑞希は食堂にずっといたので手は温まっていた。そっと握り合う。
「もうちょっと待って」
「うん。待ってる」
「その間に適当に探してていいよ」
　ちゃっかりしている。肩をすくめて携帯を出した。
「瑞希の家族は、瑞希含めてみんなブラックじゃない。だから尚更何も変哲がないだろうね」
「ほんとよね。そんなもんだと思う」
　甘くないのだ。
　コーヒーを囲む食卓。和やかな談笑。当たり前の風景だ。――これが例えば全員カフェオレなどだったらどうなのだろうか。
　無条件に「甘くない」のはブラックコーヒーくらいじゃないか。
　どうしてうちの家族は無条件に「甘くない」のだろうか。
　考えているうちに、変な方向へ行きそうだったのでやめた。
「この辺でいい？　それともちょっと電車使う？」
「……俺は、もうちょっと違うところへ出たい気分」
「いいよ。じゃ……辺りで検索と……」