コーヒーはブラックで

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 そんな彼女の前に、ふらっと姿を現したのはちょうどお昼を食べに帰ってきた従弟の(あおい)だった。年は同じだ。同じ大学に通うことになったから、彼女の実家に居候している。  自分の横をすり抜けかけた蒼が急に慌てて、彼女の手を止めた。 「あっ――あのさ」 「なに?」  彼を睨んだ。 「何か話?」 「ああ、まあ……」 「じゃあ後にして。アイス溶けちゃうから」  そう言ってすくおうとしたら――また止められる。 「ちょちょ、ちょっと、待ってって」 「何? そんなに大事な話?」  普段だったらあしらったりしないが、今は事情が違う。  目の前に溶け行くアイスがあるとなると、そちらの方が大事だった。 「アイス溶ける前に終わらせてくれるの?」 「というよりかは――」 「何、はっきりしないわね――じゃ先に食べてから聞く」  元から口数が少ない相手だ。話もなかなか進まない。普段の会話のテンポを知っている。きっとそれではこのアイスが溶ける。  そんな彼女の手はまた阻まれた。 「あー待ったストップ、あの――」  蒼は頬をほんのり染めて瑞希を見つめていた。 「頼みがあって……君……に」  とても言いづらそうに打ち明けてくる。 「――ちょっと」  瑞希は面食らった。 「そんなこと家で言わないでくれる、それに食事中なの」 「え? 言っちゃまずいことか?」 「人の食事の邪魔をしない!」 「え?」  最後のひと口をすくってさっさと口に入れた。 「あむっ」 「ああっ」 「ん――?」  何なの。  蒼が声を上げ、次に「はあ」とため息をついてしまった。  最後のひと口を、残念な顔をした人の目の前で食べるのはいささか後味が悪い。 「っ――ちょっと、どしたの」  食べてしまったものは仕方ない。たとえ最後のひと口が微妙な味わいでもどうしようもない。 「で、話って何?」  促すと、「もういい」と返ってきた。 「は? じゃ何で話しかけてきたの。まったく――」 「違う。――欲しかったのは、『君のアイスクリーム』だったの」
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