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入浴剤を買った。
ちょっとした気分転換だ。
いつもは面倒臭くて、そのまま湯船に浸かっているのだが、今日は特別。
薬局で買った安物の固形の入浴剤。
香りは薔薇。
湯に沈めると、シュワシュワと音が鳴る。
あたりに薔薇の匂いが充満した。
自らも湯船に入る。
薔薇の匂い、身体に当たる炭酸。
全てが、気分を落ち着かせてくれる。
ふと、足元の入浴剤に目をやった。
先程より小さくなっていた。
少しずつ、少しずつ小さく変化する。
いずれは、消えてしまう。
似ていると思った。
あの時、あの光景を見たとたん、私の中で何かが溶けていった。
溶ける音がした。
消えていく音がした。
(わかっていたのに。)
期待していた訳ではない。
あの男が、どんな人間が重々理解していた。
誠実さもなければ、優しさの欠片もない。
我が儘で横暴、冷血漢のクズ野郎。
私達の間に、恋愛感情はない。
ただ、一緒にいるだけ。
それでも世間では、恋人同士という関係なのだけれど。
あいつには、関係を持った女が何人もいた。
その女達は、彼女ではない。ただの性欲の捌け口でしかないと以前言っていた。
どこまでもクズみたいな男だ。
別に他の女の事に、怒りを覚えることも、悲しみに胸を締め付けられる事もない。
今さら、何だというのか。
あいつが女といるのを見て、笑っているのを見て、キスしているのを見て……。
私は何故こんな気持ちになっているのか。
何が私の中で溶けているのか。
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