溶ける、気持ち

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「あほらし……。」 顔にパシャリと湯をかける。 叔父さん臭いが、湯船でよく顔を洗ってしまう。 だが、今日はいつもと違った。 「……あ。」 指に嵌まったままだった。 いつもなら外し忘れる事はないのに。 今日に限って……それも今に限って。 『全員とすぐ別れるつもりだよ。』 貰った時の事を思い出す。 差し出した左手を掴み、ほぼ無理矢理に薬指に嵌められた。それを満足そう頷いて、あいつは話を続ける。 『俺にはお前しかいない。だから……』 「……っふざけんな!あああぁっ!!!」 バシャッ!!!!! 水面を叩き、そのまま湯船に頭から突っ込んだ。 湯の中で叫ぶ。 あぶくが口から漏れ出す。 目頭が熱くなる。 そんな事をして、少し冷静になれた私はやっと湯船から出た。 少しふらつく。 逆上せたのかもしれない。 浴槽の縁に座り、私はぼんやりと湯船の中を見つめた。 入浴剤は既に溶けていた。 「……違う。」 私はまた左手を見た。 銀色の輝きが憎たらしい。 だが、いとおしい。 「……やっぱ、そうなんだ。」 私も溶けきってしまったらしい。 本当の気持ちを閉じ込めていた、檻のような何かを。 「あんなろくでなしなのに……私。」 愛してるんだ。 目から湯でも出ているのだろうか。 止まらなかった。 あいつの中で、私も玩具の一つでしかないのに。 本当は期待した。自分を選んでくれる事を。 指輪を貰って嬉しかった。自分を愛してくれたんだと。 「本当に最悪っ…。」 枯れるまで泣いたのは、あれがはじめてだった。
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