第五話

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第五話

「男子たるもの聖人君子であれ、なんていつの時代よ、まったく!リン―、お茶―」 ぶつぶつリビングでいっている人はピンクのウサギになって、ハートのクッションを抱きかかえている。 「はい、お茶、で駄目だったの?」 「一応オーケーはもらったー」 何が不満なの? 「ねえ、聞いて―」 この年になって独り暮らし、生活できるのか、相手の人に迷惑をかけていないのか。 「挙句の果てに、お風呂にちゃんと入れるのかだって、バカにするんじゃないツーの!」 ハートのクッションをボスボスと殴りながらたまにスマホを覗いている。 「誰かから連絡でも来るの?」 「ううん、女装仲間から、たいした話はしてないよ、むふふふ」 「何その笑い」 「うらやましいんだって、理解のある彼女ができてよかったねだって」 あ、そうだ、私も、親友たちの話をした。 「へー、高校から、結構長いね」 「うん、秋ちゃんは、小学校の時転校していったんだけど、高校でばったり、それからずっとなんだ」 「こっちがゆうちゃんか、別にいいよ、それに無理して女友達だって言わなくてもいいし」 「いいの?」 「いいよ別に、そのほうが俺も仲間に入れてもらえる」 「そっちかよ」 だって別に女になりたいのは格好だけで中身まで女になりたいなんて思ってないもん。 ふーんそうなんだ。 「いいよなー食品バイーヤー、いろんなところの食べ歩きできるんだろ?」 「どうしてそれを知っている!」 「お前嬉しそうに電話してるじゃん、みんな知ってるよ」 そうか、すみませんでした。 「で、彼女は商社か、すごいな・・・ん?もしかして」 「へへへ、取引先でーす」 「グラス?」 「そう」 「そっかー、そうなのかー」 引っ越し、いつにするの?隣に座りながら聞いた。 今仕事が忙しい、十二月になれば残業も続くし… 立ち上がるとカレンダーの前で腕組みをした。 「決めた、十一月、この日にする、絶対する!」 そういって赤のボールペンで大きく丸を書いて引っ越しと書いたのだった。 「週末は?どうするの?」 パタパタと走ってきて、カウチソファーの上に正座して私を覗き込んだ。  パン! 手を合わせた。 「お願い!夜のデートしたい、買い物行きたい!そこのスーパーでいいし、あーもっと先のドラッグストアでもいいから、行きたいのーねえお・ね・が・い」 可愛い顔しちゃって。
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