65人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
彼はベッドに座った。
私はすぐそばにあったソファーにドスンと座り、テッシュを山ほど出して、それに顔をうずめた。
「バカヤロー、男なんて死んじまえ!なんで私が男なんだ!消えろ!男なんてこの世から消えてしまえ!」
大声で叫んだ、そして泣いて、鼻をかんだ。
パタン。
プシュッ。
ごくごくと飲む音がする。
「グズッ…私、言いませんから・・・」
「わかってるよ、見たんだろ?」
うん。
「何があった」
「あんなこと頼むなんて、それも一回しかあったことないのに」
「あんなこと?一回?」
昨日会ったばっかり、親友の同僚なんだって名刺もらって、お願い事があると言われ来たら、お見合いしたくないから、彼氏役を頼みたいと言われた。
「そうか、もう来ないほうがいいかもな」
笑われると思っていた。でも案外低いトーンでそう言ってくれて、なんか・・・うんという返事しかできなかった。それでもぐずぐず泣いていた。
「今日悪かったな」
「いわれると思って仕事、手が付かなかったんですよね」
「まあな、はー、お前は言うような奴じゃないと思っていたけどさ、やっぱり後ろめたいっていうか」
「後ろめたい?なんで?」
グズグズの顔をあげた、テッシュで思い切り鼻をかんだ。
「女装だぞ、普通じゃないとレッテル張られるんだぞ」
「わかるよ、普通のサラリーマンだもん…どうせ私なんか」
「私なんかなんだよ?」
「男にしか見えないわよー!」
おいおいとまた声をあげて泣いた。
ティッシュなんかすぐになくなってタオルを顔に当てていた。
「んー、まあな、お前にダブルのスーツ着せたら似合うだろうな」
びぃや―!
「なに?そこ?泣くなよー」
「どうせ女じゃないですよ、この年になっても男なんかいないし」
「でも別れたんだろ?」
顔をあげた。
「どこで聞いた?」
「食堂で携帯に向かってぶつぶつ」
「うそー?もう!」
またタオルに顔を突っ込んだ。
「なにもないもん」
「なにもないって」
「セックスなんか一回もしたことないもん、五年付き合って三年も同棲してて、女じゃなかったって言われたもん、どうせいい友達で終わっちゃうんだもん!都合のいい女でしかないんだもん!男なんかこの世からいなくなっちゃえ!男なんか消えてなくなれ!」
びぇー!
「はー」
大きなため息。
頬っぺたに冷たいものが。
「飲め」
「飲む」
プシュッと開けて一気に飲み干したビール。
飲んで、飲んで…・
最初のコメントを投稿しよう!