第二話

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彼はベッドに座った。 私はすぐそばにあったソファーにドスンと座り、テッシュを山ほど出して、それに顔をうずめた。 「バカヤロー、男なんて死んじまえ!なんで私が男なんだ!消えろ!男なんてこの世から消えてしまえ!」 大声で叫んだ、そして泣いて、鼻をかんだ。 パタン。 プシュッ。 ごくごくと飲む音がする。 「グズッ…私、言いませんから・・・」 「わかってるよ、見たんだろ?」 うん。 「何があった」 「あんなこと頼むなんて、それも一回しかあったことないのに」 「あんなこと?一回?」  昨日会ったばっかり、親友の同僚なんだって名刺もらって、お願い事があると言われ来たら、お見合いしたくないから、彼氏役を頼みたいと言われた。 「そうか、もう来ないほうがいいかもな」 笑われると思っていた。でも案外低いトーンでそう言ってくれて、なんか・・・うんという返事しかできなかった。それでもぐずぐず泣いていた。 「今日悪かったな」 「いわれると思って仕事、手が付かなかったんですよね」 「まあな、はー、お前は言うような奴じゃないと思っていたけどさ、やっぱり後ろめたいっていうか」 「後ろめたい?なんで?」 グズグズの顔をあげた、テッシュで思い切り鼻をかんだ。 「女装だぞ、普通じゃないとレッテル張られるんだぞ」 「わかるよ、普通のサラリーマンだもん…どうせ私なんか」 「私なんかなんだよ?」 「男にしか見えないわよー!」 おいおいとまた声をあげて泣いた。 ティッシュなんかすぐになくなってタオルを顔に当てていた。 「んー、まあな、お前にダブルのスーツ着せたら似合うだろうな」 びぃや―! 「なに?そこ?泣くなよー」 「どうせ女じゃないですよ、この年になっても男なんかいないし」 「でも別れたんだろ?」 顔をあげた。 「どこで聞いた?」 「食堂で携帯に向かってぶつぶつ」 「うそー?もう!」 またタオルに顔を突っ込んだ。 「なにもないもん」 「なにもないって」 「セックスなんか一回もしたことないもん、五年付き合って三年も同棲してて、女じゃなかったって言われたもん、どうせいい友達で終わっちゃうんだもん!都合のいい女でしかないんだもん!男なんかこの世からいなくなっちゃえ!男なんか消えてなくなれ!」 びぇー! 「はー」 大きなため息。 頬っぺたに冷たいものが。 「飲め」 「飲む」 プシュッと開けて一気に飲み干したビール。 飲んで、飲んで…・
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