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それから起き上がって、二人でおつまみをつまみながら、アルコールを体に注ぐ。染み渡る身を任せて、おしゃべりする。私達はきっとこういう機会でなければ、知りあえなかっただろうって。二人一致する。
「このもやし炒めおいしいね」
お隣さんが褒めると、私は逆に缶を小振りして、
「このお酒も美味しいです」
互いを褒めて、でも名前は伏せたままで。そんなふんわりした仲に耽溺する。お隣さんが、ごっくんともやし炒めを飲んでいるのか噛んでいるのか分からないぐらいで食べると、下にひいている布団をさすった。
「布団、好きなんだ。特に干した後のやつ」
「分かります」
「こうして昼間っから誰かとさしで呑むのは憧れだった」
「すっごくわかります」
「もう、そればっかぁ」
脈絡なく話す私達の声が雨音と一緒に消されていく。そうしてぽつりぽつり、彼女は味わう。
涙がこぼれそうになるのをこらえているのは見ていて分かった。お酒を呑むたびに、私の目もうるむ。それを堪えなきゃいけない気がした。あんまりに透明で、ふんわりと優しくて、空気に温もりがあって。どうしたらいいか分からなくなる。
「なんでだろうね」
「わかんないですね」
綺麗な部屋を荒らして、アルコールの匂いを充満させて、目頭が熱くなるのを感じて堪えて、乾いた息を吐いた。次第にゆっくりと体が布団にもたれていく。こっくん、と体が傾くのと同時にリズムを刻む。そのリズムがあの過ぎていった昨日の夢のひと時を思い出させる。知らないうちに鼻歌でメロディを奏でていた。あの海のような壮大なバンドの曲。その中でも珍しいバラード曲を。私のとげとげしい毛先の赤が血潮を噴き、湧き立つ。そのつややかな毛先の先で一緒に寝転ぶお隣さんが、何の曲? と寝ぼけ眼で尋ねてきた。私は、優しく大好きな曲、と朗らかに応えた。
彼女の小さな呼吸が、言葉と共に響く。
「こういうの、贅沢だよね。
こういうの、幸せっていうんだよね」
布団の優しさにくるまって、私達は次第に瞼が落ちていく。あまりの満たされた心に、アルコールが背中を押して、睡眠へ押しやる。私も彼女も抵抗しないから、小さな呼吸音と雨音を手放して、薄暗い室内からもっと暗い瞼の裏へと閉じていく。
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