贅沢な幸福

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 うっすらと目を開けた。薄いベールが鼻先をかすめて、ちろちろと撫でてくる。そこに手を浸せば、カーテンのひだが私の手に巻き付いてくる。ふっくらとした日差しがさしこむ。清清しい空気を体の中へ流し込む。するりと飲み込むと、あくびとともに疲労がどっと押し寄せてきた。思わず、布団をかぶる。ミノムシのようにくるりと布団を体に巻き付けて、近くにある携帯を引きよせる。それは旧式の携帯で、友達に見せると、まだそんなの使っているの? と笑われる代物だったけれど、待ち受け画面を見ると、そんな友人の言葉なんて吹き飛ぶ。  その待ち受けに写る彼らは変わらない。バンドの中心に立つのは、あの髪が長い青年。そして両隣には少し背が高いギターと、肉付きの良いドラムの姿。その姿を見て、ふふっと笑う。にやにやしてしまう。  その写真の前に浮かぶのは、休日の日取りと、まだ起きるには早い時間だった。  今日はたんまりと寝ていられる。どうしようか、このまま二度寝しようか。でももう既に目が冴えてしまっていて、もう一度寝られるか分からない。それに、この待ち受け画面を見てしまったからには、興奮して寝れないかもしれない。昨日の今日で、気持ちがまだ浮足だっている。口角が下がらない。  そんなことを悩んで数十分。何度見ても良い。彼らの姿に耽る。脳がとろけてしまっている。彼らを見ていると、何時間でもそうしていられる。でも仕方ない。こうしていると、私の心は満たされるのだから。  でも、ちょっとだけもったいないなと思ってしまう。確かに今日は休日で、日がな一日、そうしているだけでもいいし、洗濯物もしないでいい。少し慣れてきた一人暮らしに今日は存分に甘えていいのだ。明日やらなければならないことは明日からやればいい。そんな日を動かないだけで消費してしまうには惜しい気がした。  できれば休日だからできないことをしたい。  でも何をすれば。
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