贅沢な幸福

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 携帯を閉じて、ぼんやりと目の前の青空を見上げた。さっきは雲一つない青空だったのに、今は雲が流れていた。ふんわりとした羊のような雲だ。一匹、二匹、と渡っている。いつもだったらゆっくり過ぎて見逃してしまいそうな羊達を、今は流れていくのを見つめていられる。次第に体に力が抜けていった。携帯を放り出してしまう。頬が紅潮していくのがわかる。無心だったはずなのに、ぶくぶくと頬が腫れだして、真っ赤に熟れたトマトみたいになって、ふと一筋の涙が頬に伝った。  あれ。  拭うと、なんだかおかしくなって、布団から体を起こしてしまう。  春日和だった。ちょっとだけ雲行きが怪しい、そんな朝。「おはよう」なのか「こんにちは」なのか、どっちを言えばいいか分からない時間帯。そんな、久々に、朝に起きたからか、それとも最近忙しかったからか、突起物ができたような違和感があった。触れてみると、心になぜか悲しみや切なさがこみ上げる。  よくわからない。  六畳間のアパートをごろりと転がって、その間に頬の涙をぬぐった。  まるでニート。まるで蛹。合計してニート蛹。その現状に甘えているからか。  そうでもない気がした。大学生になって、このアパートに一人暮らしするようになって、夜は居酒屋、昼は大学と、掛け持ちのバイトをして、ようやく一年目をしのぎ、初めての大学の春休みだ。そんな日々を振り返ってみる。やっぱり疲れているのかもしれない。
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