贅沢な幸福

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 そこで、ぴこんっと頭の中に風景が浮かんだ。いつもは夜にアルコールを体に入れて、ほっこりとしてから寝る。まだ未成年で隠れてコンビニで買っているから。昼に呑むのが引けるから。  でも今日は休日だ。青空の下で缶を開けて、残しておいたおかずを頬張るのもいい。今日は休日なんだから、平日らしからぬことをしていいんだ。逆にいえば休日らしいことを。  すぐさま起きて、布団をベランダに持っていく。青空を背景に、ふんわりと灯った白い綿毛を見つめて、布団を柵にかける。しわを伸ばして、飛ばないように洗濯ばさみもして。ちょっと二三歩引いて、これでよし、と確認する。はんぺんのような布団を見ていると食欲がそそった。  でも、それはもうしばらく待ってもいいかもしれない。せめてこの布団が空気を吸うまで。  それまで休日だからこそやりたいことを頭の中のリストを連ねる。  一つ、お風呂。最近は湯舟をはらずシャワーだけで済ましていたから、今日はゆっくりと入りたかった。かっぽーんっと、効果音が懐かしくなる。そうそう、近くに銭湯があるからそこへ行くのもいいかもしれない。  二つ、化粧。新しい化粧や流行っている化粧をするのもいいかもしれない。幸い母のおさがりをここに来るときたんまりもらっている。口紅の色をいつもより冷たくしたりして、氷の女王になることだってできる。  考えるだけでほほえましくなった。一人だからできること。こんなことは初めてだった。わくわくしている。それなのに、ずっと心の奥底で何かが蔓延っている。それは青色をしていた。清清しいあの青空の色ではない。とても苦々しい味の緑に近い青なのだ。食べたらきっと一瞬で吐いてしまう。すぐに目に圧迫感を覚える。喉にしこりを抱える。  そこですかさずぱっかりと携帯を開けると、圧迫感はひっこんだ。気持ちが落ち着く。
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