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その後は順当に、行きたかった銭湯へ。忘れず待ち受け画面を携えて。
銭湯はがらっがら。一人で、ゆっくりとお湯につかって、褪せてきた髪の色を確認する。毛先にうっすらと赤を添えている。その毛先を鏡の前でいじって見せる。もっと濃い色をいれても良かったかもしれない。元がアッシュ色の髪だから妙に遠慮をしてしまった。大学に入ると周囲は茶色や赤茶色の髪の毛をしている人ばかりで、バンドマンのような黒髪のマッシュや、髪色を添えるなんてあまり見かけない。頭がプリンになる、と派手な色を嫌う人ばかり。私はその中でも地毛に悩まされ、結局はあのバンドに感化されてしまった。昨日のために色をいれたって誰にも怒られやしないのに、ちょっともったいないことした。
鏡から身を離すと、そこには女性の裸体が映る。少しだけ胸が大きくなった気がする。お腹も脂肪が目立ってきた。一番はお尻。
こういうのって、贅沢な体形だよね。
これからお酒を呑むっていうのに、ちょっとだけ自分を叱ってしまう。気にしてはいけない。髪色も、体も、きっと今日は贅沢をしていい日だ。
それでも髪を上げてはらりと落ちる髪に妙なほつれを抱いてしまう。
ほわほわと湯気立つ体をうららかな空気にさらす。熱気に満ちた体に注ぐのはフルーツ牛乳だ。ちょっとした前祝い。心地よい冷たさを零せば、温もりある雪が冷たさでとけていく。この淡々とした日常の一間に綿にまみれた感覚をあてられる。お湯からでても、どことなくまだお湯の中にいるような気分いさせる。裸足でぺたぺたと床を歩くのも、肌が床に吸い付くようで、気持ちいい。
ねっとりとした時間を感じつつ、銭湯の窓から外をみる。青空に羊が増えていた、青色が少なくなっている。そこで窓にひと針、雨の跡が刻まれる。銀髪のような雨のあとは、すぐにまるまる太くなって、窓を伝い下に落ちる。
いけない。
フルーツ牛乳の瓶をすぐに捨てて、銭湯から出る。まだ降り始めてまもない。雨の檻が完成してしまう前に、布団を取り込まなければならない。
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